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『アルタードステーツ』:
嫋やか(たおやか)に辺りを照らす月光がそっと柔らかに全身を包み込む。
ぼんやりとした神秘的な光で満ちた中で胸の前で指先を肘に付ける様に両腕を重ねて枠を造る。
気付かない意識の底にある羊水に満たされた胎児の記憶を呼び覚ます様に不思議な感覚を取り戻す。
誰も立ち入ることの出来ない自分だけの狭い空間の中で液体に浮遊している体躯。
安全な場所を確保している安心感と危険が待ち受ける外界へと出航する不安が行き来して錯綜する。
入り混じった感情が揺れ動く状態で別の絶対不可侵領域を飛び出て見知らぬ世界へと旅立つ期待が芽生える。
太古から原始細胞の奥底で螺旋に組み込まれていた探究心が背中を押し始めたのかもしれない。
『月光』:
ファイヤーマンと化した筆者は昨年末から年始にかけて「スペック祭り」に続き「ケイゾク祭り」を豪気に連続開催してしまいました(前回コラム『第75回 帰ってきたワイアード』を併せてご覧ください)。
お気づきかと思いますがそうなると次は、「トリック」"TRICK" です。
「トリック」"TRICK" は、深夜テレビドラマシリーズで放映された人気番組で(放映開始は2000年から)主演は、山田奈緒子(仲間由紀恵)と上田次郎(阿部寛)の凸凹コンビが霊能力者のインチキを暴いてなんとなく事件を解決するという物語です。マジックと霊能力のグレイゾーン、種も仕掛けもある現実と超常現象の境界を小ネタで埋めている感じの展開です。
「ケイゾク」、「トリック」、「スペック」と同じテイストで小ネタが効いている共通項がありますが、監督が同じ方でテレビドラマと映画監督の両方を手掛ける堤幸彦さんの作品です。
ドラマで登場する小ネタの中でもひと際、上田次郎が度々自慢する「どんと来い、超常現象」が最高なのですが、実際にアマゾンで市販本として出版されております。そのまんまで「日本科学技術大学教授上田次郎のどんと来い、超常現象」が書名です。
アマゾンで「どんと来い、超常現象」を検索すると「超天才マジシャン・山田奈緒子の全部まるっとお見通しだ!」もレコメンドされます。仲間由紀恵ファンにはお薦めかもしれません。ご興味があれば二冊ともどうぞ。
ところで早速「トリック祭り」を開催するべく「ト・リ・ッ・ク」と小刻みに叫んで音声検索するとAmazonプライムでは見たかった深夜テレビドラマシリーズは残念ながら有料レンタル扱いになっていました。出費が嵩む近頃、とりあえずは「TRICK 劇場版」シリーズを 「ネットフリックス」"Netflix" で現在は堪能しています。でもテレビドラマシリーズを観たい気持ちが高まっています。
深夜テレビドラマとして放映された「トリック」"TRICK" を観たかったのは、エンディングを観たかったことが理由の一つにありました。
ドラマのエンディングで紙芝居の様な奇妙で物悲しい不思議なCG映像と供に同調して絞り出すような希求の叫び声の歌声が楽曲として流れるのは独特の世界観を醸し出していて、テレビを消して床に就くと悪夢を見そうな程に深く印象として刻まれました。
この『トリック』エンディング・テーマとして流れる主題歌が「鬼束ちひろ」が唄う「月光」です。
この鬼束ちひろの「月光」を iTunes で聴いていると深夜テレビドラマが放映されていた頃を、微かながらに色々と想い出しました。
その記憶の欠片から安直に「月光」という曲名から「ムーンライト」"Moonlight" と命名したプロジェクトをサルベージしてみようと試みます。
かなり前の話の上にうろ覚えですし自分で無意識に改竄しているかもしれませんが、記憶の欠片(かけら)を一つひとつ拾い上げて想い出しながらなるべく正確に書きます。
『どんとこい超常現象』:
今より少し昔の話(2005年頃)ですが、社内システムに "Sun Ray" というシンクライアントが導入されました。
「Sun Ray(サンレイ、太陽光線の意)」は、サン・マイクロシステムズ社のシンクライアント製品で端末にICカードを挿して起動すると Sun Ray サーバーに接続して使用するものです。
それ以前にあった JavaStation を起点とした NC (network computer, ネットワークコンピュータ)が集中管理型アーキテクチャの企業用ソリューションの系譜で更に洗練された形で登場してきたのがシンクライアント Sun Ray でした。Sun Ray サーバーには Sun が買収したTarantella(タランテラ)という Windowsのエミュレータ製品がバックエンドに搭載されており業務用途としてWindowsデスクトップが使えるのです。現在では更に集中管理を推し進めたゼロクライアント(仮想化デスクトップ、VDI)という名称で日々身近に使われている組織も多いことでしょう。
時を同じくして Sun Ray に先立つ少し前から「IP電話」の普及が活発になって社内の電話が "Cisco IP Phone" に置き換えられていました。数字のボタン以外にもアイコンのボタンとモノクロの液晶が付いたシスコ製の電話機です。IP電話機はPBX(構内交換機)の代わりに「Cisco CallManager」というCisco IP テレフォニーのサービスを提供する専用サーバーに管理されることで利用出来ます。
「インターネットで電話」というフレーズで SIP (Session Initiation Protocol) という通信プロトコルがことさら取り上げられていて HTTP でリアルタイムにプレゼンスを確認できるなどの通信機能が流行りになってきた頃かと思います。オープンソースの SIP サーバー(呼制御サーバー)や IP ベースの PBX といった類も登場してきて何かと「IP電話」界隈が熱く注目されていた様な記憶が残っています。この頃、米国テレビドラマ「24 -TWENTY FOUR-」でもシスコ製「IP電話」がドラマの小道具に使われていて既に有名になっていた筈です。
この頃に唐突に漠然とした相談を受けます。
この二つを組み合わせたシステムを創って JavaOne という祭典(イベント)に出展したいという相談です。
いつもそんな話が唐突に持ちかけられる立場に居たので驚きはしませんでしたが、果たして自分に扱えるものか否かの範囲の話題かを見極める必要があります。
自分の力量を把握している訳ではないのですがそこに至るまでの筆者と言えば、教育部を卒業してから師匠の導きによって彗星の如く登場したJava が魅せてくれる軌跡を追っかけていましたが、その流れで用賀にあった 日本サン・マイクロシステムズのJava Centerに送り込まれていました。これまた登場したばかりのJavaアプリケーションサーバーという代物Tengah (後のWebLogic Server)上でのサーバーサイドJava 開発プロジェクトを経験したのです。
その後は、鈴木団長率いるWeb Technology Center (WTC) で守備範囲を広げてWeb 近辺を調査対象として追いかけていました。その途中で、伊藤忠商事率いるインフォアベニューに出向していた中村薫くんからお誘いを受けてショッピング・カート一つで沢山のお店で買い物できる仮想ショッピングモールと表現出来る斬新なコンシューマ向けサービス構築を見たことも聞いたこともないアプリケーションサーバー実装する羽目になったのは忘れがたいです。Persistence社の Power Tierという製品でEJB (Enterprise JavaBeans) を初めて商用レベルにしたという代物でオブジェクト・データーベースをコアにしており、そこから派生したものと思われます。最初は技術オブザーバーとして加わった筈が、自らが音頭を執ってこのPower Tierで実装する羽目になってフランス人の協力を得て相棒の田中満と一緒に艱難辛苦を経て日本でサービスインしたのを思い出しました(とても長くなりそうなのでまたいつかの機会にサルベージします)。
そんな経緯だったのですが、いつも新しいものばかり追いかけて何一つ身についていないのが事実です(現在と何も変わっていないということに改めて気づきました)。
そのためにターゲットである JavaStation 以後のシンクライアントは知らず Sun Ray も触ったことがない上に旧知であった筈の Sun OS/Solaris ですら全く縁遠くなってすっかり忘れていた次第です。
片やネットワーク機器は完全に門外漢でした。Sun以外のハードウェア周りについては疎くて知識も持ち合わせていません。勿論、ルータなどのCISCO 製品は触わった事すら無いです。電話、交換機についての知識はこれまた全くなく完全に無知でありました。
(これも良く覚えていないのですが)「インターネットで電話」というフレーズが広まって SIPに関連しての相談事が WTC (Web Technology Center) 時代に幾つかあってシスコのIP電話を WebLogic Server に実装したプログラムから操作するということを検証していた事があったように思います(記憶が曖昧です)。
相談されたもののちょっとお手上げかなとも思いましたが、師匠の教えで虚勢(見栄)を張った気がします。
逃げるのではなく風呂敷を広げ虚勢を通し続けたのは、慎重で間の抜けた臆病者の筆者にとって全く勝算が無かった訳ではなくてやれば何とかなるかもしれないと直感があったのです。
それと乗り気でなかった相談事の対応に迷っているときに考えていたのは、これを主導したら誰が協力してくれるのだろうかという事です。シンクライアントも IP電話も知らないのですから両端のシステム双方でのサポートが必要なのは確実だったからです。
筆者はこのアイディアに出来る限りご協力しますと言うスタンスを取ったものの誰も当てに出来ないのでしょうし、結局は自分が動かなければ前には進まないことは見えていました。そしてこの計画を具現化するために独力では限界があります。それに当時は既に他に手がけている仕事もあったの(筈)です。
果たしてこの危峰怪嶺(きほうかいれい)に誰が興味を示し協力してくれるのか、待ち受ける艱難辛苦(かんなんしんく)を一緒に耐えて喜びを分かち合えるのは誰なのか。心配事はいつもそこにあります。
誰と一緒に仕事できるのかが肝心要だと考えています。
それはやって良かったと思えるかの成否に直結するからです。
『次回予告』:
筆者に相談を持ち掛けてくれた青山くんに相棒が必要だと嘆願すると IP テレフォニーに詳しいと彼の部下をアサインしてくれました。
紹介された部下くん(後の相棒)は、小柄で童顔でちょっと頼りなさげに見えました。
初対面の挨拶をすると、濱本くんという名前です。
彼は教育サービス出身だというのです。
一話完結のつもりでしたが、「トリック」"TRICK" 同様に二話完結とさせていただきます。次回に続きます。
次回をお楽しみに。
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