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第69回  デニム・アンド・マザー (藤江一博) 2017年7月

久しぶりに多分十年位ぶりに代官山に行きました。

それは先月末の事でしたが休日に用事が出来て中目黒まで出掛けた帰りにまだ少し時間があるのに気が付いて思い付きで途中下車し立ち寄ってみることにしたのです。
狭い駅の改札を通り抜けると代官山は坂道が入り組む街並みに相変わらず小ぢんまりとお洒落なショップが軒を連ねています。そこには以前からあるお店もあればたぶん新しく出来ただろう見かけないお店もあります。そんな思いを抱きながら小さなお店が並んでいる通りを散策している途中で一軒の気になるお店を見つけました。
白い木造の店はドアが閉まっていて入りづらい雰囲気でしたが、「オープン」と小さく書かれた立て看板が玄関前に出ていたので勇気を奮ってドアを開けて入ってみました。店内に踏み入ると中は本当に小さな間取りでデニムのショップでした。小さなカウンターと横の小部屋にはお直しのミシンがありました。どうやらオリジナルのジーンズを作っている様子。
店員さんに「ちょっと見させてください。」と告げて店内を眺めさせて貰いました。ジーンズとデニムを多用したキャップなどの帽子、トートバック、Tシャツなどの小物が店内の所狭しと綺麗に飾られて陳列されていました。
一見(いちげん)さんで小心者の筆者は店内を見回した後にお礼を述べて店をそそくさと出ました。
気になったそのショップの名前はうろ覚えですが「ues」(ウエス)という名前だと確認してその日は帰路につきました。

それから数日後、書店にいつもの様に面白い本は無いかなと立ち寄ってみると雑誌のコーナーにムック本がありました。タイトルは「デニムアルティメイトカタログ」"DENIM ULTIMATE CATALOG" というタイトルです。デニムのお店をのぞいたことで購買意欲も湧き上がっていたのでしょう、思わず手にとって購入してしまいました。
そのムック本を読んで見ると有名メーカーのジーンズは勿論ですが、沢山の国産ジーンズがあるのでびっくりしました。岡山がデニム生地の生産で有名なのは知っていましたが、その生地を使ったジーンズが色々な国産ブランドとして販売されているのです。
筆者はこれまで有名な米国ブランドのジーンズか国産といってもこれまた有名なEVISUジーンズくらいしか履いたことがなかったのでこんなに沢山あるのだと少し驚いて知りました。
ところであの代官山で見たジーンズはあるのかなとページをめくって読み進めていくとあのお店がちゃんと紹介されていました。
「愛着を持ってボロボロになるまで履きつぶしたい。」とデニムの経年変化を楽しんでくださいとそんなショップからのメッセージが書いてありました。
「UES (Waste cloth)」(雑巾、ボロ布の意味)という名前は、文字通りボロボロになるまで履いてくださいという意味だということを知りました。途端にUESのジーンズを無性に履きたくなってしまいました。

その週末に再び代官山に向かいました。目的は「ウエス」のジーンズです。

 

『マカロニとジーパン』

「デニム」 (denim) のパンツを今は「ジーンズ」(jeans) というのが普通ですが、その昔は「ジーパン」(Gパン)というお洒落な呼び方で呼んでいました。

刑事ドラマのテレビ番組「太陽にほえろ!」の初代新人刑事として七曲署に赴任した「早見淳」こと「ショーケン(萩原健一)」が長髪のヘアスタイルにスリーピースでノーネクタイの格好だったのを揶揄するように「マカロニウェスタン」のファッションだったので「マカロニ」とあだ名をつけられます(マカロニについては『第40回 続・荒野の用心棒』を併せて御覧下さい)。

ショーケン演じるマカロニが殉職後に配属された二代目の新人刑事が「柴田純」こと「松田優作」です。「マカロニ」同様に見た目からの愛称を付けられる訳ですが、柴田純のファッションスタイルがデニムシャツにラッパのデニムパンツだったため「ジーパン」と命名されました。

今では「ジーンズ」と呼ぶのが普通ですが、この呼称はその響きから本格的な呼び名になったというのと相反して何だか気取った感じが少しだけします。昭和な「ジーパン」は愛着を持って口にできる呼び名です。もしかするとジーパン刑事の貢献が大きいのかもしれません。

ちょっと前にこの「ジーパン刑事」にインスパイアを得たのだと想像される「優作モデルのジーンズ」も発売されたのですが、霊長類の分類が異なるため優作とは足の長さがあまりにも違う筆者は断念せざるを得なかったのは無念でした。同じ系統の種族になりたかったです。

 

『ジーパンとお母さん』:

週末の代官山です。感化されやすい筆者なので今度はジーンズを入手するという目的がはっきりしています。

代官山駅に到着して一目散お店を目指して入店すると「ジーパンが欲しいんです」と店員さんに告げました。
お薦めの説明を一通りしてくれましたが、意味のない相槌と相手に取ってどうでも良いような「ジーパンと自分」いう独り弁論大会を店員さんにしてしまいました。実はカタログを見て欲しいジーパンの目星は事前に絞っていたのです。
弁論を終えてやっと試着への段階に入ると小さな小部屋で汗だくになりながら目星のモデルを履いてみるとシルエットがすごく綺麗なジーンズでありました。いつもよりもワンサイズ大きいのを試着したのですがこれで飯が食えるのであろうか?という腹回りの心配さえも無視出来るほどすぐに気に入りました。
汗が滴り落ちるままに更衣室から出るや否や「これ、ください。」と告げて購入の意思を示したのです。
若くてイケメンの店員さんが「最初に洗って糊(のり)を落とすのです」と親切に教えてくれて手順書と最初に使う洗剤も頂きました。
購入プロセスが確実に進行しまして後はお会計だけと思っていましたら、ジーンズの革ラベルに好きな日付を刻印してくれるサービスがあると店員のお兄さんが言うのです。

「日付は今日で良いですか?」

そう問いかけられて購入日である今日を刻印して貰えばいつ買ったのかという経年変化の確認が出来るという趣旨なのだと即座に理解しました。
ジーンズについた名前の通りに愛着が沸いて履き続けることが出来れば色の風合いを楽しめるだろうと期待されます。

「ハイ。」

と元気に答えて店内を物色しながら待ちました。
待つこと数分、出来上がった刻印には今日の日付が数字で押してありました。

「SU-170701」

購入したショップの記号と日付だそうです。
数字が1と7と0の3つしかなくてちょっと淋しいですね。でもカッコイイか。
SUは渋谷ウエスというショップの略称で、日付が2017年07月01日だと推測できます。

「あれ?」

気になってもう一度刻印の数字を見返します。「0701」つまり7月1日。今日はお母さんの誕生日じゃないですか。
手にしたジーパンの熱狂が冷めやらぬままに母さんのバースデープレゼントを探すためにお店を飛び出しました。

 

『母の歌』:

母さん(かあさん)、お母さん(おかあさん)、母ちゃん(かあちゃん)、おふくろ(お袋、おふくろ様)、ママ、マザーと母親には時代や環境によって様々な呼び方があります。
如何な呼び方を使うのだとしても自分の母親を求めて呼んでいる人の数をどれだけ乗算すれば良いのか不明なほど多くの母が主役の物語があることでしょう。人の数だけ母親は必ずいるのですからそれは間違いありません。

物語といえば「前略おふくろ様」という連続テレビドラマがありました。主演はショーケン(萩原健一)で田舎から上京して働く青年が郷里や母親への想いを手紙にするのをナレーションで語るのが印象的だった記憶が残っています。主題歌も同名の「前略おふくろ様」でショーケンが歌っています。

物語があるのですから母の歌もたくさんあります。

年代にもよりますが森進一の「おふくろさん」を想起される方が多いかもしれません。大ヒット曲でしたし、作詞家と歌い手による歌詞の改変騒動もあったのでご存じの方も多いかもしれません。

「おふくろさん」以外で無数に存在する楽曲で母を歌ったものでは、カルメンマキ「時には母のない子のように」、スピッツ「春の歌」、山口百恵 「秋桜 (コスモス)」、海援隊「母に捧げるバラード」、宇多田ヒカル「花束を君に」、YUI「to Mother」などなど、まだまだあるようです。宇多田ヒカルの母親は藤圭子です。筆者は藤圭子と同郷なので死んだ親父さんが「圭子の夢は夜ひらく」を聴いていたのを思い出しました。

 

『母ちゃん feat. 神門』:

星の数ほどある母を主題にした歌の中で筆者が現在心に焼き付いている母の歌は題名通りに「母ちゃん」という楽曲です。

「Fragment」(フラグメント)というトラックメーカーのアルバム「VITAL SIGNS」に「母ちゃん feat. 神門」として収録されています。
歌っているのは、「神門」(ごうど)です(神門については『第51回 七瀬ふたたび』を併せて御覧下さい)。

神門が詠う(うたう)歌詞には「母ちゃん」に対する想いがひしひしと伝わってきます。彼の感情も分かり過ぎる程に良く解ります。

今までの「母ちゃん」に対する無碍な態度や些細な出来事を振り返り綴る歌詞が続いたサビのフレーズで、突然、病気(怪我)で倒れたのか入院した「母ちゃん」に対する心配と何も出来ない不甲斐無さと今まで何もして来なかった懺悔が全部一度に押し寄せてきているのが彼(自分)を打ちのめしているのです。
走馬灯の様に回顧する幼少期の思い出と感謝の気持ちが入り乱れるのです。楽曲終盤でどうやら命は取り留めたかの様子で元気になって欲しいという懇願と、もう二度とこんな後悔の念を抱きたくないという感謝の気持ちを伝えていきますという決意と、これから親孝行に励みますという意思表示をしています。

最後の歌詞に「一日でも長く生きてください。本当にありがとう 母ちゃん」というストレートな思いを言葉にして締めくくって曲は終ります。

この歌が心に響いているのは神門とFragmentの「母ちゃん」という楽曲そのものが良いからです。それに神門が詠う歌詞が筆者の体験とシンクロして焼印のように刻まれているのが原因です。

郷里にいる母親が急に倒れて入院したのは一昨年のことでした。
病室のベッドの片隅で横たわって思っていたよりずっと小さな母親を診る想いは誰もが同じでありましょう。
緊急を要する大きな病であったのですが幸いにして一命は取り留めました。それに暫く経過を見てからですが無事に退院して家にも戻れました。どうやら大きな後遺症もないみたいです。血管の病気なので積極的な治療が出来ないために生活に十分に気をつける必要が今後ずっとは続きます。

「一日でも長く生きてください。本当にありがとう 母ちゃん」

このフレーズは自分も神門も同じ想いです。

 

『マザー / ジョンの魂』:

母の歌でマザー(Mother)をタイトルに冠した歌もありました。

国内のバンドで「ムック」(MUCC) / Mother、「ルナシー」(LUNA SEA) / MOTHER、「ザ・バースデイ」(The Birthday) / Mother。
ゲーム音楽ですが、酒井省吾の「MOTHER3 愛のテーマ」を「どせいさんストラップ」(ゲームボーイアドバンス「MOTHER1+2」のおまけ)を眺めながら無性に聴きたくなりました。

洋楽で探してみると既知のものではこんな曲がありました。
Tears For Fears / Mothers Talk、
Pink Floyd / Mother、
The Police / Mother、
Cyndi Lauper / Mother、
David Sylvian / Mother and Child、
Madonna / Mother And Father、
Journey / Mother, Father、
Europe / A Mother's Son、
Queen / Mother Love、
到底、把握出来ませんので数え切れない程に無数にあるのでしょう。

そしてこれらマザーの代表曲として母について語った外せない唄がもう一曲あります。
「ジョン・レノン」(John Lennon) の「マザー」"Mother" です。

ジョン・レノンの 1st ソロアルバムである「ジョンの魂」"John Lennon/Plastic Ono Band" の一曲目に収録されています。
楽曲のイントロは荘厳な教会の鐘の音が続いた後に「マザー」"Mother" と弱弱し気で不安定な高音で叫び唄い始めるこの曲は心の奥底に秘かに隠し込んでいたパンドラの箱が予兆も無く開封されたかのような魂の叫びです。どうやら楽曲が生み出された背景には複雑な家庭環境で育ったジョン・レノンが自分でも気づかない複雑な感情を露出させた表現だった様子です。

「お母さん、いかないで。」

「ザ・ビートルズ」(The Beatles) という巨大すぎる看板を経てソロになったファーストアルバムの一曲目の出だしが所在なさげに叫び出すというのはレコードに針を落としたファンにとってはさぞや驚きだったのだろうと憶測されます。
リアルタイムでは聴けず追体験しているだけで当時の事情は良くは知りませんが、なんの衒いもない(てらいもない)ジョン・レノンらしいといえばそれがやはりジョン・レノンという人だったのかと推理されます。自分をさらけ出すことを怖がらないというのは表現者として必要な才能でありましょう。天賦の才ではなくジョンが生きていく過程で勝ち得た気質であることを感じさせてくれます。

「マザー」は帰巣本能の如くジョンが求めた帰る場所であり、希って(こいねがって)も叶わなかったのですが、改めて帰る場所の必要性を考えます。

「石森章太郎」原作で特撮テレビ番組として放送された「ロボット刑事」の主人公であるロボットの「K」は戦いで傷つき補給を必要とすると「マザー」って叫んで母艦である移動要塞「マザー」に帰っていくシーン(映像)があるのですが「K」が帰るべき場所としての「マザー」は象徴的です。

修飾語として利用される「マザー」の代表格は「マザー・アース」が挙げられます。
「アイザック・アシモフ」"Isaac Asimov" のSF短編小説で「母なる地球」"Mother Earth" や楽曲の題名としても「オジー・オズボーンとランディ・ローズ」"Ozzy Osbourne/Randy Rhoads" の名コンビの楽曲で
「天の黙示(マザー・アース)」"Revelation (Mother Earth)"、「ハート」(Heart) で 「マザー・アース・ブルース」"Mother Earth Blues" など広く語彙として「マザー・アース」が使われています。
母なる大地、母なる地球などと表現されるのは、生きとし生ける者にとって母という存在は生を受けた場所であり、同時に帰ることが許される場所でもあるという意味と汲み取れます。

同じ立場にはなれませんが、帰る場所が無いジョンはとてつもなく不安であったことでしょう。もしかするとジョンは、唯一無二の場所を失ったことでいつも代わりの場所を探すことを余儀なくされたことであてどなく彷徨い続けていたのかもしれません。

 

『電話で話そう』:

「J・K・シモンズ」 "J. K. Simmons" のスピーチを思い出しました。
J・K・シモンズが映画「セッション」(Whiplash) での演技が評価されて2015年に開催された第87回アカデミー賞にて初ノミネートで見事に助演男優賞を獲得した時の授賞式でのスピーチのフレーズです。

「もし生きているのなら、お母さんに電話してください。お父さんに電話してください。電子メールではなく電話で話してください。愛していると感謝を言葉で伝えなさい。あなたへの尽きせぬ話にひたすら耳を傾けて聴いてください。」

"Call your mom. Call your dad, if you are lucky enough to have a parent or two alive on this planet. Don't text. Don't e-mail. Call 'em on the phone. Tell them you love them, and thank them, and listen to them for as long as they want to talk to you."

このスピーチを聴いた時に猛省を強いられました。

それは、親父さんが倒れたと連絡を受けて急遽帰省し病院に行って顔を見て、次に親父さんに逢った時は既に床の間で冷たくなっていたことの後悔です。
見舞いに行った後にほどなくして親父さんが退院したと聞きましたが後遺症が残ってリハビリに励んでいたそうです。ですが自衛隊で鍛え上げた親父さんの事だから元気なのだろうと高を括って倒れてから何年も帰省するのを怠ってしまったのです。何度か帰省して顔を見て、そして話をしておけばという自責の念に駆られます。時間は逆戻りしないのです。

彼の言う通りなのです。思わず自分を省みてしまうほど強くて優しい言葉です。

そう綴っていながら、久しくお母さんに逢っていないのを反省しています。
「省」の字には「親の安否を確かめる」という意味があるそうです。

近いうちに北海道に帰省してお母さんの顔を見てこようと想っています。

 

次回をお楽しみに。

 


 

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