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第57回 ブンブンサテライツ 2016年6月

「ブンブンサテライツ」"BOOM BOOM SATELLITES" は、川島 道行 "Michiyuki Kawashisma" と中野 雅之 "Masayuki Nakano" をメンバーとする二人組ユニットによる日本のバンドです。

1990年に日本で結成してベルギーのレコード・レーベルから1997年にデビューを果たしました。音源を世に送り出した反響が衝撃デビューと報じられヨーロッパで認められた後に日本への逆輸入を経て、そこから全世界に飛び出しました。今年でデビューから数えて二十年となります。

デビュー当初は「ビッグビート」(Big Beat) という「エレクトロニカ + ロック」(Electronica + Rock) という音楽ジャンル的な仕分けが批評家によって為されてヨーロッパ発で爆発的な人気を獲得しましたが、現在はそのルーツであるジャズやロックをベースにしながらもジャンルを超えて幅広く展開しています。

何らかの理由があるのでしょうが、特徴的な事柄として彼らの楽曲リリースに伴うタイアップを多く数えており、ゲーム、アニメ、テレビ・コマーシャル、映画といったメディアを横断して繰り返し行われてきました。

タイアップとして彼らの楽曲が使用されるのは、映画の劇中で物語を紡ぐために流れる挿入歌やTVコマーシャルでの瞬間的な印象を視聴者に焼き付ける短いフレーズも然ることながら、曲を聴いた人それぞれによって活性化された気分によって自由に想像を掻き立てる「余白(糊代)」が彼らの「音(ビート)」にあるのではと想像しています。

実際にタイアップされたアニメーションとして「アップルシード」"APPLESEED"、「亡念のザムド」"Xam'd: Lost Memories"、「キズナイーバー」"Kiznaiver" を代表とする数多くの作品でオープンニング・テーマに採用されています。

物語に入る前のオープンニングで作品イメージを観客に決定的に印象付ける、或いは、導入部としてある種の先入観を植え付けることで作品の世界観を肥大化させるといった役割を持つ「テーマソング」に採択されるという事柄から鑑みても "BOOM BOOM SATELLITES"(ブンブンサテライツ)が繰り出す「音(ビート)」が「余白(糊代)」として捉えられているのかは定かではありませんが、採用側であるクリエーター達を惹きつけ彼ら自身のイマジネーション増幅させる「何か」を期待していることは確かでしょう。

この "BOOM BOOM SATELLITES"(ブンブンサテライツ)の最新EP "LAY YOUR HANDS ON ME" が 2016年6月22日にリリースとなります(デジタル配信はリリース済み)。このコラムが掲載される頃にはちょうどEPがリリースされていることでしょう。このバンドの曲を未聴の方は宜しければチェックしてみてください。オススメします。

BOOM BOOM SATELLITESのベース音が鳴り響くアップテンポ系統の楽曲を聴くには部屋で深夜に独りヘッドフォンも悪くない選択ですが、新曲の場合はたぶん屋外で聴く方が爽快ですし誰かと一緒に過ごす夕暮れの海岸がとても良く似合います。

移動中に音楽を聴くのには、携帯プレイヤーとイヤフォン(もしくはヘッドフォン)が必要です。

筆者は通勤時にて電車で移動するのが主な音楽の視聴時間になっています。

毎朝、前の日に新しくプレイヤーに仕入れた音楽を聴くのが嗜好の時です。

その至高の時を断念せざる負えない自体になりました。

イヤフォンが断線して聴こえなくなってしまったのです。

このイヤフォンが断線する故障はこれまで幾度となく繰り返されて来た事なのですが、これまた予期せず唐突に起こります。これは毎朝の通勤電車ラッシュの後遺症とも言えましょうが、唯一と言っても過言ではないストレスを軽減するためのツールである音楽を絶やす訳にもいきません。

今まで幾度となく買い換えてきたイヤフォンの「次」を探す必要に迫られました。

ですが、先日お話したように壊れた冷蔵庫を買い換えたために多額の出費を余儀なくされたためにお財布が薄くなってしまった弱り目に祟り目、続けざまに今度はイヤフォンの故障と遭遇したので出費が嵩んでしまうところが悩み所です。

イヤフォンの購入に際しては、皆さんそれぞれに利用目的や音楽的趣向がありますし利用者も多いので多種多様な選択肢が用意されているのですが、逆に選択肢が多すぎて困るのでもあります。

筆者の選択は国産メーカーの "Final Audio Design"(ファイナルオーディオデザイン)というブランドが、スタイリッシュでありながらどこかレトロなカラーリングとデザインに加えて音質の好みの双方を満たしているために近年長く愛用させて頂いております。自社開発のドライバーユニットを搭載した高価なイヤフォンもある一方で、リーズナブルな価格帯もラインアップしているので幾つかのプロダクトを合計で十本は買い換えておりました。

ですが、最近愛用していました割と高価なイヤフォンのジャックが無残に折れ曲がってしまったので、次を調達するのに一考する必要が出てきたのです。

そこで脳裏に浮かんできたのが「ケーブルがなければ断線もしない」という考えです。

突如としてワイヤレスのイヤフォンが断然欲しくなってきたのです。

散々悩んだ末に、まるで未確認飛行物体の母船と見間違える様なフォルムの銀色の二個の円錐台が底面で結合された金属製ケースに厳かに格納されたイヤフォンを手に入れました。

その「謎の円盤UFO」の正体は、「EARIN」(アーリン)という代物(プロダクト)です。

カナル型イヤフォンとして耳の穴に差し込んで利用するのはFinal Audio Designと同様の形態ですが、完全なケーブルレスとして使用できるBluetoothイヤフォンです。

現行製品にて多数のBluetoothを利用したワイヤレス・イヤフォンがありますが、ハンズフリーで通話するための片耳だけの通話を目的とした用途か、音楽を聴く用途としても耐え得るものはプレイヤーと繋がっていないので確かにワイヤレスなのですが、左右のイヤフォンがワイヤーで結線されて首に掛けるネックバンドとなっているものがほとんどです。これは左右のイヤフォンの同期をとるためとアンテナやバッテリーを搭載する必要からの機能的な柵(しがらみ)です。

EARINは、それらとは大きく異なり完全なケーブルレスとして使用できるものです。左右が完全に分離したイヤフォンなのです。まさに耳栓だけのイヤフォンでそこにドライバーユニット、アンテナ、そしてバッテリーも内蔵したのです。完全に自由なのです。

EARINによって、また一つ飛び立つ自由を手に入れたのです。
Apple iTunesが部屋に散らかったレコードとカセットとCDを整理してくれて、
Apple iPodが登場してそれら音楽の全てを持って青空の下に出掛けることができるようになって、
EARIN が携帯プレイヤーに従属されていた鎖を引き千切ってくれて自由に走り回れる解放を与えてくれました。

それにイヤフォンを片耳だけ入れればラジオ用途でモノラル再生も可能ですし「S.F.ごっこ」だって出来ますよ。「マトリクッス リローデッド」"The Matrix Reloaded" に登場してきたザイオン(Zion)管制官のようにARのモニターを叩いて扉を開いてネブカドネザル号(Nebuchadnezzar)を入港させる妄想も再現可能です。

それに、ほんとにケーブルが邪魔だったのです。

電車のドアが開いた時に傍若無人な乗客が筆者のケーブルを引っ掛けて持っていかれそうになったことが数知れずありますし、マフラーを巻いている時に一緒にケーブルが絡まったりして脱げなかったし、胸ポケットに入れるには大きすぎるプレイヤーを鞄に入れているので鞄を網棚に置けないのです。

EARINを装着することでまさに鎖を解かれた気分なのです。

EARINはLINCOLNとも言えましょう。

問題点もあります。高価である点です。前述した筆者の事情もありまして結構な価格で出費が嵩みました。またもや衝動買いの浪費かとも思われたのですが、ですがこれを払拭するほどに使ってみると良い点がまだあるのです。

未来を感じさせるフォルムを持ったイヤフォンケースですが、このベータ・カプセルでイヤフォンを充電します。付属しているUSBケーブルでカプセルをパソコンに繋いでイヤフォンを充電するのです。カプセル単体でもイヤフォンを三回充電出来ます。カプセルに入れて持ち運ぶ事だけで充電されているためにイヤフォンのバッテリー切れも心配ありません。

更にはカプセルにイヤフォンを格納するとBluetoothが切れて、装着するためカプセルから出すと自動でBluetoothが接続されるという優れものです。「出せば繋がり、仕舞うと切れる」まさに利用シーンを考慮しての嬉しい機能です。

また専用アプリもAndroid/iOS版が無料で提供されており、バッテリーの充電レベルを確認できます。

アプリでは追加機能としての左右の音量バランス調整やベース音ブースト(オンオフのみで調整は不可)なども出来ます。Windows版アプリはもうすぐリリースされるとの事です。

事前に音をバッファリングしているそうですが使ってみると音がたまに瞬断します。これからもう少し改良して欲しい点もあるのですが、「自由」を一度手にしてしまうと手放せなくなってしまいます。

後はこの初代「EARIN」の寿命がどれくらいあるのかというのが問題なのですが、いつまで持つのか知る由もありませんがそれまでの時間を大切に暫しお付き合いさせて戴きたく想っています。

EARINに関するもう一つの話題としては、北欧スウェーデンから登場してきたベンチャー企業のEpickal AB社はクラウドファンディングサイト(Crowdfunding Sites) の "Kickstarter" (キックスターター)で出資を募って起業したことが挙げられます。多額の資金を調達して製品を世に送り出せたのは、皆の注目とその先見性が認められたことに他ならない結果だと考えられます。突飛と思えるようなアイディアを製品として具現化しそれを欲しい人々に供給するというスピード感はこれまでになかったことでしょう。

Epickal AB社を創業したメンバーの前職は、ソニーエリクソンやノキア、そして他の通信関連企業で働いていたエンジニア達だそうです。スタートアップ時の課題はあったものの、柵(しがらみ)を解き払い自らのアイディアを練り上げ製品化への企画を行動に移した「思い切り」が功を奏した様子です。

勿論今まで通り、大企業が考え抜いたラインアップで製造された商品を棚に並んでいるものから消費者(筆者)が欲しいものを選ぶ事で十分満足を得ていたのです。ですが、それらの中でも不満を持っている場合やこだわりがある対象の製品の場合には、その「近似値」に妥協する選択肢だけしかありませんでした。

これからはもう一歩先に進んで欲しいものを創ってくれるプロジェクトに肩入れすることで、手に入れることができるようになってきた訳です。

突き詰めれば自分専用のプロダクトを自ら創るのが間違いなく自分好みになるのでしょうが、デザインにしてもアイディアにしても、皆が皆そんなに高尚なクリエティビティを持っている訳ではないのでしょうし具現化のための技術的な課題をクリアし完成度も高くして商品化するのは並大抵のことではないのですから、「こんなの欲しかったんだ」というのを創ってくれる人に賛成票を投じることができるのは悪いことではないのでしょう。

それにも況して、やりたいことがある人を援助できるのが良い点なのではと感じます。

 

冒頭話題にさせて戴いた "BOOM BOOM SATELLITES"(ブンブンサテライツ)が二十周年を迎えて記念碑ともなるべく最新EP "LAY YOUR HANDS ON ME" のリリースが間近に迫っているのですが、中野からのメッセージで本作が彼らの最後の作品となることが発表されました。

詳しくはBOOM BOOM SATELLITESのオフィシャルサイトをご覧ください。

既に後年のインタビューで彼ら二人によって公表されているのですが、デビュー以来メンバーの川島氏の脳腫瘍が幾度となく再発し手術を繰り返しており、その度毎に活動が停滞し音源リリースに困窮し、ライブを急遽中止せざる負えないこともあった様子です。何よりも音楽創作がいつも生死と背中合わせであった緊張状態での活動であったのかと察します。しかしながら、音源以外のそれら外部因子をリスナーに与えて楽曲に結びつけて聴いて欲しくないという願いから黙っていたのだそうです。近年、情報開示に至ったのは時間がある程度経過した事とライブを急遽中止するといった影響を観客に与える事態に陥り理由を説明しなければと告白したのでしょう。

彼らは病気と付き合い折り合いをつけながら音楽を創ってきた訳ですが、それも今回が最終回となるのだそうです。ゴールまで残された時間はあと少しです。

EPとしてリリースされる "LAY YOUR HANDS ON ME" に収録される楽曲は四曲で約二十二分の世界を提供してくれるのだそうですが、彼らを取り巻く周囲の関係者はこれを「アルバム」(Album)として認識しおり、十枚目のアルバムを二十年の記念碑的総括としてリリースされます。

このアルバムのリードトラックである "LAY YOUR HANDS ON ME" は、現在放映中のTVアニメ「キズナイーバー」 "Kiznaiver" のオープニングテーマソングとなっています。

「キズナイーバー」の物語は、夏休み直前に高校二年生のクラスメイトが傷を通して「痛み」を共有するという「キズナシステム」(Kizuna System) に組み込まれてシステムを通して互いの痛みである「負(陰)」の情報共有を強いられるのですが、それを経て「気持ち(感情)」という「正(陽)」の交流を模索していくという話の様です。まだ途中までしか見ていませんが、人は理解しあえるのかという「友達づくり」の物語です。

「みんな誰かと繋がりたい」ヒロイン園崎法子が主人公の阿形勝平に語ります。

テレビ番組が放映される冒頭にまるで万華鏡に組み込まれたミラーボールを覗いているかのような極彩色の映像と供に流れ出すテーマソング "LAY YOUR HANDS ON ME" はこのストーリーの中核部分を極大化した振動を物質化した音の波を視聴者の心根に響かせて大きく感情を揺さぶります。壷に刺さります。

ボーカルの川島さんが伸びやかな高音を用い何かを超越したかの様に抑揚を抑えて無機質に唄う "LAY YOUR HANDS ON ME" (レイ ユア ハンズ オン ミー)というサビのフレーズは中野が繰り出す優しいメロディと軽やかにリズムを刻むパーカッションの音源と相まってそのままの意味通りに「あなたの手をわたしにあずけて」(僕をつかまえて)とリスナーである我々を優しく包み込むように別れを告げているのだと触れて感じることが出来て彼等二人のゴールに相応しい出来映えとなりました。

「是非、聴いてみてください。」

次回もお楽しみに。

 


 

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