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映写機からの光の束がスクリーンに映し出されると真っ黒な画面にファズで毛羽立ったフックのあるギター・リフで反復リズムが刻まれ続けながら画面中央に文字が順に映し出されます。
「ストリート・オブ・ファイヤー」"Streets of Fire"
「ロックンロールの寓話」 "A Rock & Roll Fable"
「とある時間、とある場所で」 "Another Time, Another Place"
文字が消えると今夜催されるロックスター、エレン・エイム(Ellen Aim)の凱旋ライブに人々が続々集まる街頭の様子。場面は変わりライブ会場が映し出されて地元スターの登場を待つ観客の前で、ベースのリフが鳴り響き、ドラムロールがフィルインしてリズムをタイトに刻み始めると、ピアノがカットインしてメロディを奏で始めます。スタンダールの如く「赤と黒」で観客と対峙するジョルジオ・アルマーニの衣装を纏ったエレンが現れ、ステージの端から走り込んで舞台中央にあるスタンド・マイクを掴んでアップテンポに疾走するナンバー "Nowhere Fast"を歌い出すのです。そして、サビのフレーズで会場の観客と一体になります。
「ダーリン、ダーリン」"Darlin', Darlin'"
冒頭、"Ellen Aim and The Attackers" のライブシーンで始まるこの映画は、ウォルター・ヒル(Walter Hill)監督の「ストリート・オブ・ファイヤー」"Streets of Fire" です。
ヒロインであるエレン・エイム役を早熟の十九歳であったダイアン・レイン(Diane Lane)が艶やかに演じています。全編に亘ってロックンロールが流れるこの映画のプロットは至ってシンプルな西部劇です。悪役によって拉致されたヒロインをヒーローが助け出すという在り来りのストーリーを架空の街を背景に色鮮やかに描いているのです。
この手の青春映画やミュージカルの類に食傷気味であるか、または、安手の使い回しのストーリーに飽き飽きされる場合もあるのでしょうが、これこそが光り輝く原石を磨くために大事なステップであることが往々にしてあります。
この映画のキャストで唯一キャリアがあったといえるのは、若干十九歳のダイアン・レインでした。デビュー作である「リトル・ロマンス」"A Little Romance" はヒット作となり注目されて何本かの映画に出演した経験がありましたが、彼女以外ほぼ無名といって良いキャスティングだったのです。
主役トム・コーディ(Tom Cody)を演じるマイケル・パレ(Michael Pare)は、前職がニューヨークの有名レストランで副料理長をしていたそうです。無邪気でハンサムなタフガイを演じたパレは、この映画でスターの仲間入りを果たし、後に多数の映画に出演することになります。
敵役レイブン(Raven Shaddock)を演じたウィレム・デフォー(Willem Dafoe)は、彼が前作でバイカー役で出演したのが功を奏した配役でしょう。絵に描いた通りの悪役として適役です。その後の彼は「プラトーン」"Platoon" で大ブレイクしご承知の通り大スターとなりました。
エレン・エイムのマネージャー、ビリー・フィッシュ(Billy Fish)役で注目されたリック・モラニス(Rick Moranis)は、この後すぐに「ゴーストバスターズ」(Ghostbusters)に抜擢されて一躍有名になりました。
トムの相棒を務めるマッコイ(McCoy)役はエイミー・マディガン(Amy Madigan)です。エイミーはウォルター・ヒル監督に強烈に売り込んで当初のシナリオも変えさせてこの役を射止めたそうです。癖のあるサブキャラクターという立ち位置をこの役を得て確立し認知させたのです。
マッコイに殴られるバーテンダーのクライド(Clyde the Bartender)を演じたのは、ビル・パクストン(Bill Paxton)です。「エイリアン2」"Aliens"で四六時中文句ばかり言うハドソン役で覚えている方もきっといらっしゃるでしょう。また「ターミネーター」"The Terminator"、「プレデター2」 "Predator 2" など、やられ役が多い彼ですが「ツイスター」"Twister" や「アポロ13」"Apollo 13" のドラマで準主役として堂々と演じており多数の作品に出演しています。最近では「オール・ユー・ニード・イズ・キル」"Edge of Tomorrow"(alt. "Live Die Repeat")でも嫌味な曹長役で露出していました。
このように数多ある一介の青春映画(その中でも一握りの映画だけ)が、無名の役者たちに脚光を浴びせており、それぞれが旅立っていく巣立ちの場所となっていました。
そして脚本家であり監督のウォルター・ヒル自身もエディ・マーフィを擁した前作「48時間」"48 Hrs." の成功から一転して音楽中心の映画を撮ることは初めてであり、監督においても冒険であり挑戦であったはずです。
売出し中の役者が映画という作品に登場しロードショーという興行を経てお披露目されるように、職業や老若男女を問わず「場」が重要なのです。光を浴びる舞台、飛び立つための「足場」が要るのです。そこには、互いに切磋琢磨する機会があり、そして、外界に露出し世間に認知される機会が待ち受けるかもしれません。もちろん、陽の目を見るためにはひたすら地道な基礎を積んでおくことが大事ですし、そしてそのチャンスを逃がさず掴み取るための度胸も必要でしょう。思い切って一歩踏み出すと崖下にそのまま落ちるかもしれないのですから、飛び立つ際には根拠のない自信や無闇な勇気も必要なのです。
この映画のサウンドトラックにも同じことが言えます。様々なアーティストがこの映画に楽曲を提供しています。
特にダイアン・レイン演じるエレン・エイムが劇中のライブシーンで歌う楽曲は、秀逸であり映画のテーマというべき表現の一翼を担っています。
但し、プロデューサーのジミー・アイオヴィン(Jimmy Iovine)に拠ると、そのエレンの歌声はローリー・サージェント (Laurie Sargent)とホーリー・シェアウッド(Holly Sherwood)らの複数の女性ボーカリストの合成音声で吹き替えられているそうです。筆者はこの吹き替えをボニー・タイラー(Bonnie Tyler)だとずっと思い込んでいたのですが、間違いだったのです。
これは劇中での主題歌とも言える "Tonight Is What It Means to Be Young"、"Nowhere Fast" の演奏が 「ファイヤー・インコーポレーテッド」"Fire Incorporated."という架空のバンド名義なのですが、ジム・スタインマン(Jim Steinman)が創作した楽曲だったのです。ジム・スタインマンは、ボニー・タイラーのヒット曲「愛の翳り」"Total Eclipse of the Heart" や「ヒーロー」"Holding Out For A Hero" も彼が手掛けた楽曲で曲調が一緒であることに加えて、ホーリー・シェアウッドはスタインマンがプロデュースしたボニー・タイラーのアルバムでバッキング・ボーカルとしても参加していたのです。つまり筆者風情が勘違いしたのも当然であり、あながち間違いとは言い切れないのかもしれません。
このうち "Tonight Is What It Means to Be Young" は、椎名恵のデビュー曲としてカバーされ「今夜はANGEL」というタイトルでリリースしていました。「ヤヌスの鏡」というテレビ・ドラマで流されていたので聞き覚えのある方もいらっしゃるのではないかと思います。
ところでジミー・アイオヴィンと言えばですが、ドクター・ドレーとビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)の共同創業者としてご存知かもしれません。アップルに音楽ビジネスに欠落している点を指摘し、そしてBeatsの買収を説得したのも彼だそうです。今ではアップルで先進性のある音楽サービスの開発立ち上げに奮闘しているそうです。
またエレンが回想シーンで歌い上げる 「ソーサラー」"Sorcerer" はスティーヴィー・ニックス(Stevie Nicks)の名曲が提供されているのですがサウンドトラック・アルバムでは(上映版と異なり)スティーヴィー・ニックスらのバッキング・ボーカルを務めていたマリリン・マーティン(Marilyn Martin)が唄っています。しかもこの曲でスティーヴィーがマリリンのバックに回ってまで彼女をプッシュしているのです。これを機に下積みを長く重ねた彼女は後にソロデビューを果たすことになるのです。
先輩からの後押しがあるのは、大事な要因であることは間違いないのでしょう。
またダン・ハートマン(Dan Hartman)は、劇中では架空のドゥーワップグループで黒人四人組のソレルズ(The Sorels)が唄う挿入歌として "I Can Dream About You" を提供しますが、これがヒットチャートに躍り出ました。彼がソロキャリアとしての躍進の切っ掛けとなり、この後もヒット曲を世に送り出しますが、彼はエドガー・ウィンター・グループ(Edgar Winter Group)のベーシストでした。
役者、ミュージシャンと続いてダンサーです。
ブラスターズ(The Blasters)のロックンロールナンバー "One Bad Stud" をBGMにマリーン・ジェイハン(Marine Jahan)がダンサーとして踊っています。彼女は 「フラッシュダンス」"Flashdance" でジェニファー・ビールス(Jennifer Beals)の吹き替え(の一部)として踊っていたのだそうですが、本作では堂々と彼女自身が本編の映像に登場しています。
スポットライトを照らす場を創り出すこと、そして、そこに地道に努力を重ねた人を後押しすること。これらの所作は人を輝かせるためには、どの職場でも同じことなのであろうとそんなことを夢想しました。
筆者にはこの映画には特別な想い入れと云いますか不思議な感触があります。
上京してから学生時代のほとんどの時間を学校にも行かず生活費を稼ぐためにアルバイトに費やしていました。バイト先は吉祥寺にあったパブ・レストランの厨房で働いていました。お店は吉祥寺という土地柄、学生が集うアメリカンでカジュアルな雰囲気の飲食店だったのですが、店内にはモニターで映画を常に写し出すという趣向がありました。モニターに映し出すのは映像だけで音声は出さずに別の音楽を流すのです。店では曜日や時間帯によってかける映像や音楽もホールの人間が趣味や感性で変えるのですが、「ストリート・オブ・ファイヤー」はヘビーローテーションされた映画の一つだったと思い起こされます。断片的に厨房から眺めていたという意味ではこの映画も数百回以上見ていると思います。
そしてそのバイトを通じて多くの先輩や仲間に出逢いました。色々な人に出逢い、経験を重ねて第二の人格形成がそこで為されたといっても過言ではありません。そして仕事は大変辛いものでしたが、大好きな仲間達と過ごした濃密な時間は今でも大切な宝物です。
それが故かは当人にも判りかねるのですが、この歌(映像)が掛かると何故か気持ちが高揚するのです。それはこの「ストリート・オブ・ファイヤー」が店内に流れていた当時、筆者もダイアン・レインと同い年の十九歳でした。『我らが青春』という摺り込みなのかもしれません。
そして「アウトサイダー」"The Outsiders" も店で良く流れていた映画であったのを思い出しました。そういえばこの映画にもダイアン・レインが出ていました。機会があればまたいつかご紹介します。
もしロックンロールや80年代ロックがお嫌いでなければ、本作をご覧になるのも一興かとお薦めさせて頂きます。
次回もお楽しみに。
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