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「すべてのアメリカ人にプログラミングを学んで欲しい」
これは米国バラク・オバマ大統領が動画で公開しているメッセージです。
(President Obama calls on every American to learn code)
オバマ大統領が、学生や先生、NPOなどで構成する会合(非営利団体が主催するコンピュータサイエンス教育週間 Computer Science Education Week: CSEdWeekというイベントが2013/12/09から開催)に向けたスピーチ(動画)です。このスピーチに関するニュースは各所で取り上げられているのでご存知の方も多いと思いますが、未見の方は是非メッセージの原文(肉声)をYouTubeでご覧になると宜しいでしょう。
スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ等も「プログラミングを学ぶ必要」について過去に同様の趣旨の発言をしています。しかし今回は業界の外側で、しかも現職の米国大統領の発言ですので(イベントでのキックオフスピーチだということを差し引いても)パンチの重みが違います。
オバマ大統領は以前にも同様の趣旨での発言をしており、小中学生からのプログラミング教育に熱心で、現実に高校からプログラミング必修化へのカリキュラム見直しを提案しており意欲的に取り組んでいる様子です。
この発言には二つの意図があるように推論出来ます。それは米国での将来的な労働力の確保と就業人口増加のための貧困層の就職口です。
現在ですら仕事でコンピュータを使わない業種はほぼ皆無といって良いでしょう。将来的にはその能力拡大による影響範囲は指数関数的に増えていくことは明白です。つまりコンピュータの知識を完全に排除しては、どんな職種であれ就業機会には恵まれません。
また過去のジョブスの発言の通り、プログラミングは「一般教養」であり論理的な解決を導き出す「思考プロセス」を構築する上で有効な方法であるからです。またコンピュータが支配する社会を制御するにはコンピュータを熟知する人材が不可欠であり人財は経済に直結します。下世話な言い回しをすれば、レアメタルよりも貴重な資源です。
拙作の過去コラム(「北の国から」)においてもプログラミングへの理解の重要性と近い将来には大きく経済圏の地図が書き換えられるであろうことを述べましたが、それはIT業界を担う人材の確保が、企業や組織そして国策として最優先課題であるからです。
そしてもう一つの問題が、米国での極端な貧富の格差は既に埋めることが出来ないほど深い溝がある事実です。
たった一握りの富裕層による富の独占がリーマンショック以降に更に加速し、ほとんどの国民は日々の暮らしすら支えきれない程に冷え込む一方という状況は大恐慌以前にもなかったのです。しかもロックフェラーを体現するような一縷の望みであったアメリカンドリームという夢を抱くことすらもほぼ消え去ってしまった現況では、遠くない将来に耐え切れない国民が社会的な不満を爆発させて内政の混乱を招くのは不可避です。
米国の近況を垣間見る一つの情報として、以前に出版された「バーバラ・エーレンライク "Barbara Ehrenreich"」著作の「ニッケル・アンド・ダイムド "Nickel and Dimed"」を強くお薦めします。副題についた「アメリカ下流社会の現実」のとおり、低所得者層とされる人々が低賃金で働かざるを得ない状況下で、幾ら働いてもまさに一瞬の光明すらも見えない暗闇の中を歩き続ける過酷な生活をしている様を、著者自らその環境に飛び込んで体験し記した本です。この本で描かれていることがすべての米国民の日常生活とはいいませんが、決して特別ではない「切実な現実」を切り取ったものだと理解できます。
最近のニュースでも米国社会での問題点が何度となく取り上げられています。深刻な疾患の手術費を払うために、すべての資産と家を売ってしまい住む場所すらなくなった元大学教授ご夫婦の悲哀。崩壊した街デトロイトでは、昨年産まれたばかりの乳飲み子を抱える電気工事の職人は現在全く仕事がなく見様見真似で慣れない水道管の修理で日々の生計を立てていますが、自身の持病をカバーするために保険への加入を勧められたものの月額一万円の高額な保険料を払い続けることが出来ないと嘆いています。
まさにエミネム(Eminem)の歌(ラップ)と映画で描かれた8マイルロード(8 Mile Rd Detroit, MI, USA)という名前の貧富の境界線での現実の話なのです。
ニッケル・アンド・ダイムドは他人事ではありませんし、遠く離れた異国でのおとぎ話でもないのです。対岸の火事どころか「一億総中流」と呼んでいた共感しやすい社会は過去のこと、米国の社会にこれまた模倣するが如く追従しており大きな格差社会が日本で形成されつつあります。これが日本の社会不安の根本原因になっているのは明白です。これは他山の石とせねばなりません。
この状況を打破するためには平等な教育機会とそれによる労働力の流動性が必要ですが、困難を極める課題であることは間違いないのです。ましてやこの所得格差のために最重要な最後の砦であるべきはずの「均等な教育機会」が失われかけているからです。
風呂敷を広げすぎて少し大げさと感じるかもしれませんが、この大問題に切り込む一助となる可能性を秘めているのが「プログラミングの習得」であるという意図でありましょう。
IT技術の習得で将来多くの需要(就業機会)が予測出来る産業すべてに対してそれに呼応可能な人材育成を行うことで就業人口を増やし社会流動性と労働力を確保するという目論見に思えます。技能の習得にはコモディティ化による恩恵の安価なパソコンとインターネットさえあれば、その気があれば誰でも勉強を始めることができるからです。実際に日本でもハローワークで就業を促進するための求職者支援訓練としてプログラミングの授業を行うという取り組みも行われているとのこと。但し、肝要なのはすぐに陳腐化してしまうような付け焼刃のプログラミング技能を教えることよりも、ジョブスの言葉であった「思考プロセス」を養うことなのだとは思います。
そしてそれが教養へと繋がる道筋なのでしょう(「何より教養が大事」だというのは筆者の師匠の口癖です)。
オバマ大統領の政策として高校からのプログラミング必修化の点にも触れておきましょう。政策としては、高校から必修化を開始し周囲の認知を得て段階的に年齢を下げていく作戦だとは思われますが、これは問題をはらんでいます。
例えば、最近の日本では英語教育についてのニュースが取り上げられています。英語教育を小学校3年生から開始しようとする試みについてすら専門家が二つの懸念点を表意しています。その懸念点は、「英語嫌いが増える」、「教える教員が足りない」の二つです。
これは「英語」をそのまま「プログラミング」に置き換えることが出来ます。
エストニアでのプログラミング教育を小学校の低学年からスタートする計画と比較して、米国での高校生からの必修化は遅すぎる故に、疎外感、抵抗感を拡大させ逆効果になりかねません。必修化は押し付けと同義だからです。
もちろん、歓迎する若年層のギークはいるとは思いますが少数派でしょうし、更にその中に居る幾人かの新たなザッカーバーグはカリキュラムの必修化とは無関係に独立独歩で己が道を見定めていくでしょう。
最大の課題は万人が抵抗感を無くしてリテラシーを高める素養を育むことです。年少の頃から触れること、そして、楽しく遊ぶことでその抵抗感が減るでしょうし、その中の子供の一部が自然と興味を深めてその道を極めていくというのが理想でしょう。むしろ、高校生になったら自分の興味でカリキュラムを選択するような施策が有効なのではと感じます。
ところで、近年では諸外国で日本の算盤(そろばん)が評価されて学校の初等教育に用いられているそうです。日本の方々が海外で算盤を子供たちに教えているニュースを散見します。実技、技能の紹介に留まらず、算盤の造形の美しさや文化を紹介しているのです。
「読み書き算盤(そろばん)」と同じように、「読み書きプログラミング」とするのも一つの選択肢なのではと考えます。
プログラミングも算盤と同じような交流ができないものかと思います。プログラミング自体は決して難しいものではないのですから。
最後にクリスマスも近いですから、誰もがいくつになっても好きなことを学べる機会と弱者を慈しみ共に助け合い、誰彼なしに共感し合える社会を取り戻したい。そんなお願いをサンタクロースへのメッセージにしたいと思います。
次回もお楽しみに。
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