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第45回 モバイルデバイスのハードウェアを知る(パート1) (中井悦司) 2018年9月

はじめに

 今回は、2018年に公開されたエッセイ「2 Billion Devices and Counting: An Industry Perspective on the State of Mobile Computer Architecture」を取り上げます。このエッセイでは、モバイルデバイスのハードウェア性能を評価する際の考慮点がまとめられていますが、その中で、現代のモバイルデバイスが担うワークロードの特徴、あるいは、モバイルデバイスに求められる特性などが整理されています。今回は、このエッセイの前半部分で解説されている、モバイルデバイスのハードウェアの特徴を紹介します。

モバイルデバイスのハードウェア特性

 現在、スマートフォンを中心とするモバイルデバイスの総数は、全世界で20億台を超えると言われます。図1は、世界の地域ごとにおける、スマートフォンの利用者数の変化(これまでの変化と今後の予測)を示したグラフですが、北米、および、西ヨーロッパでは、その伸びは頭打ちになりつつあるものの、その他の地域では、依然として、増加傾向にあることが読み取れます。

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図1 スマートフォンの利用者数の変化(エッセイより抜粋)

 この総数は、世界のデータセンターで可動するサーバーの数を大きく上回ります。スマートフォンの多くはARMプロセッサーを搭載していますが、その出荷数を一般的なサーバーで使用されるx86プロセッサーと比較したものが図2になります。

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図2 ARMプロセッサーとx86プロセッサーの出荷数の比較(エッセイより抜粋)

 「モバイルデバイスとサーバーではハードウェア性能が大きく異なり、その台数を比較しても意味がない」と感じるかも知れませんが、現代のスマートフォンは、1990年代のスーパーコンピュータに匹敵する処理能力を持っています。たとえば、冒頭のエッセイでは、最新のスマートフォンに搭載されたGPUが待つ、500Gflopsという性能は、1990年代の最高性能のスーパーコンピュータに匹敵するとの指摘があります。

 さらに、モバイルデバイスでは、一般に、SoC(System on Chip)と呼ばれるハードウェアアーキテクチャーが採用されます。これは、CPUとその他の周辺機能を1つのチップ上にまとめて実装する方式です。ARMプロセッサーを提供するARM社はハードウェアの製造は行っておらず、ARM社からライセンスを購入したハードウェアメーカーが、それぞれに独自のハードウェアを設計・製造しています。そのため、アーキテクチャーの実装には、さまざまなバリエーションがあり、高い周波数で動作するマルチコア・プロセッサーを前提とした、目的特化型の個別設計が行われています。したがって、そのハードウェア内部には、デスクトップPCに匹敵する多様性をもった構造が隠されており、ハードウェア性能を評価する際は、OSやアプリケーションとの連携を含めた総合的な視点で、ベンチマークを行う必要があるというのが、このエッセイの趣旨になります。

 図3は、モバイルデバイスにおける、ハードウェアとその他の構成要素の依存関係を示します。それぞれの間には、エネルギー消費量、アプリケーション性能、そして、ユーザー満足度といった指標があり、これらを総合的に考慮することで、モバイルデバイスのハードウェアの価値を決定し、今後の進化の方向性を決めていく必要があるというわけです。

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図3 モバイルデバイスにおける構成要素の依存関係(エッセイより抜粋)

モバイルデバイスに関する研究の現状

 ここまでの説明から、モバイルデバイスのハードウェアには、データセンターで使用されるサーバーとは異なる特徴があることがわかります。しかしながら、サーバー用ハードウェアと比較すると、モバイルデバイスのハードウェアアーキテクチャーについては、その学術的な研究はまだ遅れているようです。このエッセイの中では、ハードウェアアーキテクチャーに関連する論文数の比較を行っており、図4に示すように、データセンターに関連するハードウェアの論文は、モバイルデバイスに関連する論文よりも圧倒的に多いことがわかります。

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図4 データセンターとモバイルデバイスに関する論文数の比較

 とはいえ、冒頭でも説明したように、モバイルデバイスの総数は、すでにデータセンター内のサーバー数を大きく超えており、個々のハードウェア性能の向上を考慮すると、モバイルデバイス上での計算処理性能は、今後の情報処理の世界に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。このエッセイのテーマでもある、ハードウェアの性能評価といった基礎的な研究への取り組みが、今後さらに重要度を増していくことでしょう。

次回予告

 今回は、2018年に公開されたエッセイ「2 Billion Devices and Counting: An Industry Perspective on the State of Mobile Computer Architecture」をもとにして、モバイルデバイスにおけるハードウェアの現状を紹介しました。次回は、このエッセイの後半部分で議論されている、ハードウェアの性能評価における考慮点を紹介していきます。

Disclaimer:この記事は個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には関係はありません。

 


 

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