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前回に続いて、2023年に公開された論文「Improving Design Reviews at Google」を紹介します。この論文では、Google社内でのデザインレビュープロセスの改善ツール(DAC)が紹介されています。今回は、DACの導入による改善効果とDAC利用者からのフィードバックを紹介します。
まず、図1は、論文執筆時点でのDACの利用状況を示した表です。DACを利用したデザインドキュメントの作成者が41,030人で、デザインドキュメントの数は251,517、そして、レビュアーの数は74,796といった数字が確認できます。
図1 DACの利用状況(論文より抜粋)
前回の 記事で説明したように、DACを利用することで、レビューが未完了のデザインドキュメント、あるいは、担当のレビュアーが容易に特定できます。そのため、DACの利用効果の1つとして、レビューが完了するまでの時間が短縮されると期待できます。そこで、論文の著者は、DACの利用者にインタビューを行い、DACの利用を始める前のデザインドキュメントについて、レビュー完了までにかかった時間を調査して、DACを利用した場合の時間と比較しています(図2)。DACを利用する前のドキュメントについては、最初のレビュー依頼を行った日時とすべてのレビューが完了した日時を手作業で確認してもらい、DACの利用開始後のドキュメントは、DACの動作ログから機械的に集計しています。
図2 DACの利用開始前後におけるレビュー完了までの時間(論文より抜粋)
この結果によると、DACを利用する以前は、中央値で963時間だったものが、DACを利用することで、722時間に短縮されています。また、このような新しいツールは、利用回数が増えるほど、それぞれのユーザーは、より効果的に利用できるようになると想像されます。図3のグラフは、これを実際に示すもので、横軸は、DACの利用開始後、何番目に作成したデザインドキュメントかを表します。初めてDACを使った際のデザインドキュメントでは、レビュー完了までの時間が中央値で977時間だったものが、12回目のデザインドキュメントになると、中央値で502時間まで時間が短縮されています。
図3 DACの利用回数によるレビュー完了まで時間の変化(論文より抜粋)
論文の中では、この他に、レビュアーの数とレビュー完了までの時間の関係も調べており、図4の結果が示されています。レビュアーの数が増えれば、レビュアーとのディスカッションの量も増えるため、当然ながらレビュー完了までの時間は長くなります。DACの利用者へのインタビュー調査によると、多数のレビュアーに依頼する場合、すべてのレビュアーに一度に依頼するのではなく、時間をあけて徐々にレビュアーを追加することで、レビュアーとのディスカッションを効率的に進めるといった工夫も行われているということです。
図4 レビュアー数とレビュー完了まで時間の関係(論文より抜粋)
そして最後に、DACの導入効果として、「心理的安全性」の向上にも触れられています。DACの導入により、それぞれのデザインドキュメントのレビューの進捗状況がチーム全体で共有されるようになり、レビュー依頼者のレビュアーの行き違いによる混乱や無用な対立を防止するのに役立っているということです。
今回は、2023年に公開された論文「Improving Design Reviews at Google」に基づいて、Google社内でのデザインレビュープロセスの改善ツール(DAC)ついて、その改善効果を紹介しました。Googleドキュメントと連携した非常に簡易的なツールですが、本文で説明したように、その効果について詳細な評価を行っている点は、Googleの「データに基づいた判断」を重視する文化が感じられる論文でした。
次回からは、Google社内で使用されている分散トレーシングのシステムを紹介していきます。マイクロサービスの運用には必須のツールの1つです。
Disclaimer:この記事は個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には関係はありません。
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