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第84回と第85回では、OpenShiftにおけるDockerイメージのバージョン管理と自動ビルドの機能を説明しました。今回は、作成したDockerイメージからコンテナを起動して、アプリケーションを実行するための「デプロイ設定」を解説します。これで、OpenShiftの代表的な機能である「イメージストリーム(ImageStream)」「ビルド設定(BuildConfig)」「デプロイ設定(DeployConfig)」が理解できたことになります。
さらにOpenShiftでは、これらの設定を一つにまとめた「テンプレート(Template)」を作成することができます。テンプレート管理者が、関連する設定を事前にテンプレートにまとめておくことにより、アプリケーション開発者やテスト/リリース担当者は、複雑な設定を意識することなく、従来型のPaaS環境として簡単に利用することが可能になります。
デプロイ設定を解説する前に、OpenShiftに特有の仕組みである「Pod」について補足しておきます。これは、仮想NICを共有する形で複数のコンテナをまとめてデプロイする機能です。図1のように、同じPodに属するコンテナは、同一のIPアドレスを持っており、お互いに「localhost」経由での通信が可能になります。たとえば、PostgreSQLのデータベースを実行するコンテナと、GUI管理ツールのpgAdminを実行するコンテナを同一のPodにまとめて起動します。通常、pgAdminでは、管理対象のPostgreSQLが稼働するサーバーを指定する必要がありますが、この場合は「localhost」指定で接続することができます。
また、OpenShiftでは外部のNFSサーバーやGlusterFSのファイルシステム領域を「永続ストレージ」として、コンテナに接続することができます。同じPodのコンテナは、同一の永続ストレージ領域を参照することができるので、コンテナ間でファイルを共有することも可能になります。
図1 複数のコンテナをPodにまとめて起動
それでは、Dockerイメージからコンテナを起動するために必要となる「デプロイ設定」を解説します。デプロイ設定では、主に次の項目を指定します。
Podテンプレートでは、Podに含めるコンテナごとに、使用するDockerイメージ(イメージストリームとタグ名)や接続を受け付けるポート番号などを指定します。レプリカ数は、同一構成のPodを複数起動して、アプリケーションの負荷分散を行う際に指定します。また、ノードセレクターを使用すると、開発環境、テスト環境、本番環境などで、Podを起動する物理サーバーを分けることができます。プロジェクト単位で事前にノードグループを指定しておき、さらに、デプロイ設定のノードセレクターでグループ内の特定ノードを指定するなども可能です。
そして、トリガーを利用すると、Podのデプロイを自動で再実行することができます。Podテンプレートでは、使用するDockerイメージをイメージストリームとタグ名で指定しますので、新しいイメージにタグ名が付け替えられたタイミングで、Podを再デプロイするなどの使い方ができます。複数のPodで負荷分散を行っている場合は、新しいイメージのPodを追加で起動しながら、既存のPodを段階的に停止するという処理が可能です。これにより、外部のクライアントから見て、アプリケーションが完全に停止する期間をなくすことができます。レプリカ数については、Podをデプロイした後から変更することも可能です。
Podテンプレートでは、接続を受け付けるポート番号を指定しますが、外部から直接にこのポート番号で接続するわけではありません。外部からの接続については、同一プロジェクトの他のPodから接続するための「サービス」と、外部のクライアントから接続するための「ルーティング」の2種類の設定があります。
まず、接続先のPodテンプレートの名前と接続用のポート番号を指定して「サービス」を定義すると、このPodテンプレートから起動した複数のPodに対する、接続用IPアドレス(代表IPアドレス)が用意されます。他のPod内のアプリケーションからは、「接続用IPアドレス/ポート番号」に接続すると、自動的に負荷分散が行われるようになります。
次に、「ルーティング」では、事前に定義したサービスに対して、さらに外部接続用のURLを指定します。これにより、外部のクライアントからは、URL指定でのアプリケーションアクセスが可能になります。Webサーバー、Webアプリケーションサーバー、DBサーバーからなる、3層構造のアプリケーションであれば、それぞれに相互接続用のサービスを定義した上で、外部からのアクセスが必要なWebサーバーには、ルーティングを追加設定する形になります(*1)。
なお、サービスの接続用IPアドレスは、サービスを定義したタイミングで自動的に割り当てられて、その後に起動したPodからは、環境変数を用いて該当のIPアドレスが参照できるようになります。したがって、実際の運用では、Podを起動する前に、事前にサービスだけを定義しておきます。この後でPodを起動すると、それ自身が所属するサービスにおける負荷分散の振り分け先に追加されると共に、他のサービスに対しては、所定の環境変数でのアクセスが可能になります。Pod内で稼働するアプリケーションでは、他のPodへのアクセスは、すべて環境変数で指定するように構成しておきます。
これまで数回に渡って、OpenShiftの機能を解説してきました。第83回で紹介した「OpenShiftの全体像」について、より実感を持って理解していただけたものと思います。
次回は、新しい話題として、「Jupyter」を紹介します。元々は、Webブラウザの画面上で、Pythonによるデータ分析を対話的に実施するツールでしたが、最近では、これをシステム運用・管理に活用しようという動きがあります。Jupyterを利用して「実行可能な手順書」を作成するという、興味深い取り組みを紹介したいと思います。
*1 OpenShift v3 Technical Introduction
「OpenShiftの内部構造」のセクションにネットワーク接続の詳細が記載されています。
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